2020.07.14
令和2年版の防衛白書が公開されました。
昨年の防衛白書では、P284でイージス・アショアの配備についてその必要性と安全性と、住民の不安払拭について明確に書かれていました。
今回はP261でイージス・アショアの配備について必要性は認めているものの、安全面が前提と違っていたことや、今後国家安全保障会議にて検討していくこと、防衛の空白を生まないために「新しい方向性しっかりと打ち出し、速やかに実行に移していきたい」旨が記されています。
個別の論評は一旦置いておくとして、防衛白書にも「運用プロセスの停止」が明記された上に、新しい方向性を打ち出すことも明記されています。
以下参考までに。
防衛白書P261〜
(4)イージス・アショアの導入
これまでのわが国の弾道ミサイル防衛は、ミサイル発射の兆候を早期に察知して、イージス艦などを展開させ、必要な期間、迎撃態勢をとることを基本とし、イージス艦8隻体制であれば、2隻程度は、一定の期間にわたって継続して洋上で BMD任務を行い、わが国全域の防護が可能であると考えてきた。
一方、北朝鮮は、発射台付き車両(TEL)による実戦的な発射能力を向上させ、また、潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)を開発するなど、発射兆候を早期に把握することが困難になってきている。このような状況の変化なども踏まえれば、今後は、24時間・365日の常時継続的な態勢を、1年以上の長期にわたって維持することが必要であり、これまでのわが国の弾道ミサイル防衛のあり方そのものを見直す必要がある。
また、現状のイージス艦の体制において、長期間の洋上勤務が繰り返される乗組員の勤務環境は、いつ発射されるかわからない弾道ミサイルへの対処のため、日夜、高い集中力が求められるなど、極めて厳しいものとなっている。
こうした現状も踏まえ、北朝鮮の核・ミサイル 開発が、わが国の安全に対する重大かつ差し迫った脅威となっている中、平素からわが国を常時・持続的に防護できるよう弾道ミサイル防衛能力の抜本的な向上を図る必要があることから、17(平 成29)年12月の国家安全保障会議及び閣議において、イージス・アショア2基を導入し、これを陸自において保持することが決定された。イージス・アショアは、イージス艦と同様に、レーダー、指揮通信システム、迎撃ミサイル垂直発射装置(VLS)などで構成されるミサイル防衛システム (イージス・システム)を、陸上に配備した装備品であり、大気圏外の宇宙空間を飛翔する弾道ミサイルを地上から迎撃するものである。いわば、イージス艦の船体以外の部分を、そのまま陸上に 固定的に置いたような装備品である。イージス・アショア2基の導入により、わが国全域を24時間・365日、長期にわたり切れ目なく防護することが可能となり、隊員の負担も大きく軽減される。また、イージス艦8隻体制の下で、2隻程度が洋上においてBMD対応で展開するために、ほぼBMD任務に専従するかたちで運用せざるを得なかったが、そのイージス艦を海洋の安全確保任務に充てることや、そのための練度を維持するための訓練、乗組員の交代を十分に行うことが可能となり、わが国の対処力・抑止力を一層強化することにつながることになる。また、今回、イージス・アショアに搭載するレーダーは、SPY-7という最新鋭で高性能のものとなっており、海自のイージス艦に比べ、ロフテッド軌道への対応能力や同時 多数攻撃への対処能力など、わが国の弾道ミサイル防衛能力は飛躍的に向上することになる。
イージス・アショア2基の配備候補地として、秋田県の陸自新屋演習場及び山口県の陸自むつみ演習場を選定して以降、地元自治体・住民の皆様に対する説明会を繰り返し実施し、配備の必要性や各種調査などについて説明してきたところ、そ の説明資料の誤りや住民説明会における職員の緊張感を欠いた行為など、極めて不適切な対応があった。防衛省としては今回の件を真摯に反省している。今後そのようなことのないよう、省内の体制を抜本的に強化するため、19(令和元)年 6 月に防衛副大臣を本部長とする「イージス・ア ショア整備推進本部」を設置した。
19(令和元)年10月以降、青森県、秋田県及び山形県の20か所の国有地並びに山口県のむつみ演習場に関して、調査の外部委託による再調査を開始するとともに、技術的見地からの助言を得るため、「各種調査の技術的検証に関する専門家会 議」を設置するなど、説明内容の確認と見直しを実施することとした。そして、同年12月には、山本防衛副大臣が山口県を訪問して、再調査の結果も踏まえて、関係自治体の首長に対して説明を行った。
(5)イージス・アショアの配備に関するプロセスの停止
ア 防衛省による発表内容
20(令和2)年6月15日、防衛省は以下の内容を発表したところである。むつみ演習場への配備については、18(平成30)年8月以降、地元に対して、それまでの米側との協議を踏まえ、迎撃ミサイル(SМ-3)の飛翔経路をコントロールし、ブースターをむつみ演習場内に落下させるための措置をしっかりと講じる旨、説明してきた。秋田についても、同年8月以降、新屋演習場の場合、ブースターは海に落下させる旨、説明してきた。
しかしながら、その後、引き続き米側との協議を行い、検討を進めてきた結果、20(令和2)年5月下旬、SМ-3の飛翔経路をコントロールし、むつみ演習場内又は海上に確実に落下させるためには、ソフトウェアのみならず、ハードウェアを含 め、システム全体の大幅な改修が必要となり、相当のコストと期間を要することが判明した。
防衛省としては、この追加のコスト及び期間にかんがみ、イージス・アショアの配備に関するプロセスを停止することとし、今後の対応については、まずは、防衛省として、地元の皆様にお詫びとご説明を申し上げ、国家安全保障会議に今般の 状況を報告のうえ、その議論を踏まえて検討してまいりたい。
イ 安倍内閣総理大臣による発表内容
本件に関し、同年6月18日、安倍内閣総理大臣は以下の内容を発表したところである。イージス・アショアについて、配備のプロセスを停止する決定をした。地元の皆さまにご説明していた前提が違っていた以上、このまま進めるわけにはいかないと判断した。
他方、わが国を取り巻く安全保障環境が厳しさを増している。その現状には全く変わりはない。 朝鮮半島では今、緊迫の度が高まっている。弾道ミサイルの脅威から国民の命と平和な暮らしを守り抜いていく。これは政府の最も重い責任である。わが国の防衛に空白を生むことはあってはならない。平和は人から与えられるものではなく、我々自身の手で勝ち取るものである。安全保障政策の根幹は、わが国自身の努力にほかならない。抑止力、対処力を強化するために何をすべきか。日本を守り抜いていくために我々は何をすべきか。安全保障戦略のありようについて、この夏、国家安全保障会議で徹底的に議論し、新しい方向性をしっかりと打ち出し、速やかに実行に移していきたいと考えている。
以上がイージス・アショアの配備に関する防衛白書内での記述です。
我が国の防衛に関して、主義主張、立場持ち場でそれぞれ考え方は違うと思いますが、今回のイージス・アショア配備の議論をきっかけに、我が国の根本的な防衛のあり方、国と地方の関係性、沖縄県の基地負担や、緊張状態の近隣諸国との外交などもしっかりと国民全体で考えていければと思います。